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アスベストによる中皮腫発がん機構の解明―予防法開発への期待― 研究活動 | 研究/産学官連携

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Academic year: 2018

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平成 24 年7月 27日

アスベストによる中皮腫発がん機構の解明

―予防法開発への期待―

この度、名古屋大学大学院医学系研究科(研究科長・髙橋雅英)生体反応病理学の

豊國伸哉(とよくに・しんや)教授と蒋麗(しょう・れい)研究員らの研究グループ

は、商業的に使用されたすべてのアスベスト繊維(石綿)による中皮腫発がん過程に

おいて、鉄過剰が主要な病態になっていることを発見しました。これにより、すでに

アスベストに曝露されたひとへの予防法の開発が期待できます。

なお、本研究成果は、2012 年 8 月3日(現地時間)、英国ならびにアイルランド

病理学会誌『The Journal of Pathology』電子版に掲載される予定です。

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アスベストによる中皮腫発がん機構の解明

―予防法開発への期待―

要旨

この度、名古屋大学大学院医学系研究科(研究科長・髙橋雅英)生体反応病理学の豊國伸 哉(とよくに・しんや)教授と蒋麗(しょう・れい)研究員らの研究グループは、商業的に 使用されたすべてのアスベスト繊維(石綿)による中皮腫発がん過程において、鉄過剰が主 要な病態になっていることを発見しました。これにより、すでにアスベストに曝露されたひ とへの予防法の開発が期待できます。なお、本研究成果は、201283 日(現地時間)、 英国ならびにアイルランド病理学会誌『The Journal of Pathology』電子版に掲載される予 定です。

1.背景

工業製品への応用が非常に魅力的な物質も、時には人間の健康への脅威となることがある。 その1つにアスベスト繊維(石綿)がある。アスベスト繊維は「奇跡の鉱物」として、日本 でこれまで合計1000万トン以上が使用されてきた。また、採掘量は少なかったが日本にも多 数のアスベスト鉱山が存在した。ところがアスベスト吸入から3040年後に肺癌や悪性中皮 腫が引き起こされる事が明らかとなり、アスベストは現在では「静かな時限爆弾」として恐 れられている。中皮腫(悪性中皮腫)は、肺や腹腔内臓器を覆っている中皮細胞由来の癌で ある。今後中皮腫罹患者は増え続け、2025年をピークとし、今後40年間に日本だけでも10 万人以上の方が死亡すると試算されている。今のところ、治療法はまだ模索の段階であり、 極めて早期に発見されなければ治癒は難しい。

これまでWHOの報告書によれば、青石綿は白石綿にくらべて 500 倍の発がん性があり、 茶石綿は白石綿にくらべて 100 倍の発がん性があるとされている。現在、白石綿だけはカナ ダやアジアの諸国、ロシア、ブラジルなどでいまだに市場が形成されている。これらの発が ん実験は7080年代によくされていたが、今回、すでにアスベストに曝露されたひとに関し て予防法を探索するため新たなテクノロジーを使用してこの3種類のアスベストの発がんを

ポイント

○全世界で商業的に多量に使用されたクリソタイル(白石綿)、クロシドライト(青石綿)、 アモサイト(茶石綿)という3種類のアスベストの標準品を使用して、ラットで腹腔内投 与による発がん実験を行い、発生した中皮腫の遺伝子解析を行った。

○すべてのアスベスト投与に伴い、投与周辺組織に著明な鉄沈着が観察され、発生した中 皮腫において共通したゲノム変化がみられた。鉄の触媒作用を促進する薬剤の投与で、中 皮腫発生の促進が観察された。これより、すべてのアスベスト繊維による発がん過程で鉄 過剰病態が重要であることを明らかにした。したがって、過剰鉄を制御することが発がん 予防となる可能性がある。

○腹腔内投与では、白石綿が最も早期に中皮腫発がんを惹起した。

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再評価し、下記のような新知見を得た。

2.研究の内容

商業的に使用された3種のアスベスト(白石綿、青石綿、茶石綿)の標準品 10 mg を、ラ ットの腹腔内に投与するという単純なモデルで実験を行った。このモデルではアスベストが 直ちに標的細胞である中皮細胞に接触することになる。すると、最終的にほぼすべての動物 で悪性中皮腫が発生したが、白石綿による発生が最も早期であり(50%発生、13 ヶ月)、 青石綿と茶石綿は同等の結果で白石綿の5ヶ月遅れであった。

鉄は必須栄養素であり成人1人あたり4 g含まれ、その60%は赤血球中の酸素運搬タンパ ク質ヘモグロビンの構成成分として存在する。ところが、鉄は価数を変える遷移重金属であ るため、過剰になると活性酸素を発生する化学反応の触媒として作用する。その触媒作用を 増強する薬剤をラットに投与したところ、どのアスベストに関しても、中皮腫の発生が有意 に早くなった。このことは、アスベスト発がんに過剰鉄が関与している1つの証拠である。 さらに、周辺臓器の鉄含有量を測定したところ、すべてのアスベストで顕著な鉄沈着を認め た。白石綿の場合は、赤血球の破壊(溶血)とそれに伴う内容物の繊維表面への吸着が病態 に関与するものと推測している。

発生した中皮腫を、マイクロアレイ技術を利用したアレイCGH法で解析すると、ほとん どすべての腫瘍でCdkn2a/2b (p16/p15) がん抑制遺伝子のホモ欠損を認めた。このゲノム変 化はヒトの中皮腫においても高頻度に認められるものであり、これまでに過剰鉄による発が んとの関連が報告されている遺伝子変化であった。

総じて、すべてのアスベストによる発がん過程において、鉄過剰病態が重要であることが 明らかになった。

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3.成果の意義

完成した中皮腫のゲノム解析からは、原因となったアスベスト繊維の同定は困難であるこ とが判明したが、一方、すべてのアスベスト発がんで局所の過剰鉄病態が明らかとなった。 この事実は、すでにアスベストに曝露された人々で中皮腫予防戦略として使用できる可能性 がある。

白石綿は、中皮細胞に到達すると予想以上に早期に発がんを起こす。空気中から胸膜に到 達する経路の評価は別途必要ではあるが、白石綿に関するこれまでのデータを再検討する必 要があると考えられる。肺気腫などにより気胸が発生した場合には、気道と胸腔がつながる ので特にリスクを考慮する必要があろう。

4.今後の展望

現在、過剰鉄の制御による中皮腫予防の動物実験を施行中である。

白石綿に関するこれまでのデータを再評価し、肺がんなどへの影響も考慮していく予定で ある。

【用語説明】

アスベスト:石綿ともよばれる。ケイ酸塩を主体とする繊維状の鉱石。耐久性・耐腐蝕性や 耐熱性に優れ、かつ採掘が経済的に安価であったため、全世界で使用された。かつて小中学 校では石綿金網が理科の実験で使用されていた。

クリソタイル:白石綿、結晶構造には鉄を含有しない石綿、最もしなやかな構造をもつ。

クロシドライト:青石綿、結晶構造に30%程度の鉄を含む石綿。中皮腫の発がんリスクが最 も高いとされている。

アモサイト:茶石綿、結晶構造に30%程度の鉄を含む石綿。

中皮細胞:胸腔や腹腔、心腔を覆う一層の細胞層であるが、ほとんどの実質臓器の表面も覆 っている。ヒアルロン酸を主体とするムコ多糖を分泌することにより、動きに伴う摩擦熱の 発生や臓器が癒着することを予防している。

アレイCGH法:マイクロアレイ技術を利用して、発がん過程におけるゲノムの変化(特に、 増幅や欠損などの大規模な変異)を検出する方法。

ホモ欠損:常染色体においては、染色体(遺伝子座)のどの部位においても父親由来ならび に母親由来の2個の遺伝子が存在する。その両方ともが失われること。

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肺気腫:終末細気管支ならびに肺胞の構造破壊を伴う不可逆的な拡張。喫煙と関連が深い頻 度の高い肺疾患。

気胸:肺表面の胸膜が種々の原因で破れてしまい、肺胞と胸腔が通じた状態。正常では、胸 腔内が陰圧であるため肺はふくらんでいるが、気胸により肺は穴の開いた風船のようにしぼ むことがある。

【論文名】

Iron overload signature in chrysotile-induced malignant mesothelioma

(白石綿 誘発悪性中皮腫における鉄過剰のサイン)

※英国ならびにアイルランド病理学会誌『The Journal of Pathology』掲載予定

201283日(現地時間)付けの電子版、印刷版は現時点では未定)

参照

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